golivewire

montage / monologue

Live Wire/Highvoltage Cafe Owner's blog

SF

7 2月

破れたハートを売り物にして


語の希求によって少女を登場させること自体は何ら問題ないと思う。
ただ、あまりに無神経で駄目な作品が多いのも事実ではある。
少女という属性に対する執着もさることながら、描き方自体が陳腐で偏見にまみれている。そこにこそ問題の本質がある。

ステロタイプを通り越して、作者の欲望のみを反映した、生身の人間とは思えぬ人格設定や行動原理を与えてしまうから、作品がポルノに堕する。

この記事の誘導の仕方はアンフェアで感心しないが、SFを看板にしたポルノ的作品の多さは否定すべくもなく。ロリコン、ショタ、やおい、百合──様々に細分化した性の有り様を描くのはいい。ただ、もう一度21世紀の時代感覚を鑑みたアップデートを施すべき時期が来ていると思う。
3 11月

眉村卓といえば…

『通り過ぎた奴』ーーエレベーターで主人公が食う幕の内弁当の、冷えた飯とおかずの描写が本当に美味そうだった。

手元に現物がないので曖昧な記憶に頼るが、蓋についた水滴のビジュアル、卵焼きや白飯の口に当たる感触、焼き魚の香りの描写などが淡々と、しかし空きっ腹の心理ーー仕事の合間の移動のジリジリとする食欲を伝える、見事な描写だったと思う。

あれは東京大阪を盛んに行き来した眉村さんの、新幹線の中での経験を書いたものなんだろうな。



3 11月

「インサイダーSFと21世紀日本のディストピア化」〜実現しなかった眉村卓・深堀りイベントの懺悔〜

SF小説の名手、眉村卓さん死去 作品に「ねらわれた学園」 | 共同通信

SF小説の名手として知られた作家眉村卓(まゆむら・たく、本名村上卓児=むらかみ・たくじ)さんが3日午前4時1分、誤嚥性肺炎のため大阪市阿倍野区の大阪鉄道病院で死去した。85歳。大阪市出身。葬儀・告別式は9日午後0時半から、大阪市阿倍野区阿倍野筋4の19の115、やすらぎ天空館で。喪主は長女知子(ともこ)さん。 ...



『EXPO’87』や『幻影の構成』『わがセクソイド』は好きな作品で、他のSF作家にない日常と衝突する「仕事」や「人間関係」の苦さや重さ、平井和正のようなキャラクター設定や文体によってではなく、精神性の部分でハードボイルドに繋がる要素があった。

また、新自由主義の蔓延で資本の強欲と非人間性が露骨になったこの時代の到来を、眉村さん提唱のインサイダーSFは一定の深度で読み取っていたと思う。

更後出し証文になってしまうが、インサイダーSFにテーマを絞って深堀りする会が出来ないだろうかと企んでいた。

毎月恒例のSFイベント「SF何でも箱」にはご参加いただいたことがあるが、そちらはレジェンド作家としての総花的なお話を伺う会で、直球ど真ん中の作品読解をやるイベントではなかった。

経済学者の溝口哲郎さんがblog『書物の帝国』で積み上げておられる眉村卓論が、非常にインプレッシブだったので、それをベースにした議論が成立するのではないかと考えていたのである。

既にエントリーされて10年が経つ文章だが、今日の日本がディストピア的な一極支配に陥ることを見越したような課題設定がなされており、非常にスリリングな問題提起が刻まれていると思う。

90年代以降の現代SFとの比較ーーバラードの『殺す』や伊藤計劃『ハーモニー』と対比しながら、『幻影の構成』における社会の秩序構築システムと個の関係の問題に言及したり



『EXPO'87』では、産業将校という体制側のエリートが、ディストピア的な一方的支配を目論むのではなく、市場原理に沿っての最適解を探している、と読解するなど



様々な形で、眉村SFの「21世紀的読み」を示唆している。

お二人の対話で、さらにこの延長線上の考察が聞いてみたかったのだ。

かし、眉村さんが大阪在住であることに加え、ウチがいくら客足には拘泥しないイベント屋であるとはいっても、ご出演を仰ぐ以上あまりに薄い客席だとさすがに申し訳ないことになってしまう。

対象となる作品群の大半は60年代後半から70年代前半に書かれたものであり、表面的には独特の用語や当時の世相と切り離せないエッセンスが多い。若い読者にそのまま意義を薦められなくなっていたのも事実。

どこまで訴求力/動員があるかを測りかねて、結局形にできなかった。

しかし、眉村さんの業績を測る上で、やはりインサイダーSFの総括はどこかでやっておくべきだったのだ。単なるレトロではなく、そこに時代を読み解く埋設物があることに俺自身気づいていたというのに。

たすら後悔の念がこみ上げてくる。

ごめんなさい。何もできませんでした。
今はただ安らかにお休みください。
プロフィール

Live Wire

メッセージ

名前
メール
本文
記事検索
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ