頭ではある程度わかってるつもりでしたが、やはり望月三起也という人は、心底自由な人でした(笑)。
今回、幾つか話題を準備してまして、その中の一つに、【望月三起也公認の「ワイルド7」続編年表をつくろう!】というネタがありました。
実は「ワイルド7」には、本編以外にも、連載終了後に書かれた続編がいろいろありまして
「優しい鷲」(正編終焉後のスピンアウト短編)
「新ワイルド7」「続・新ワイルド7」(徳間書店「コミックバンバン」他に書かれた正規の続編)
「ロゼサンク」(新 女ワイルドが主役の単発短編)
「飛葉」(中年になって健康を害した飛葉がコスタリカで傭兵くずれになっている変則的続編)
「W7」(初の全頁カラーでネット雑誌連載:五回分で休止中)
「ワイルド7R(リターンズ)」(今回の書きおろし新作)
の七バージョン。
大筋は、記憶喪失になって一般人として生活している主人公の飛葉のもとに、かつての上司・草波(もしくはその息子)が現れて、難事件の解決を押し付ける。飛葉は「なんで俺が?」とブーブー言いながらも曲者の新しいメンバーを集め、ワイルド(を名乗らないときもある)として悪と戦うというのが基本ストーリー。まあいわばどれも単発ものばかりなので、飛葉と草波以外の登場人物は毎回リセットされてしまうのですね。「フーテンの寅さん」とか「座頭市」と一緒で、ホントは一話完結。だからそれぞれのシリーズ間には何の繋がりもないっちゃ、ない。
まあ、そうは言うものの続編は続編ですから、ファンとしても、何がどうなって飛葉が流浪していくのか(だいたいなんで毎回記憶喪失になっているのか(笑))、前後のつながりだって気になるし、消えたメンバーにだって思い入れがあるから、彼らの末路なんかも知りたい話ではある。(結構、望月先生の場合、シリーズ間の繋がりだけじゃなくて、個々のエピソードの中でも、途中で消えちゃって出て来なくなった隊員が居たり、序盤に仕掛けられた小さな謎の末路が語られないまま終わったり、なんて事もママありまして…その謎をあーでもない、こーでもないと想像してみるのも、ファンの楽しみではあったんですね。)
そこで今回は、作中でトシを取っていく飛葉の“壊れ具合”(笑)とか傍証を材料に、「続編間のミッシングリンク」を先生に直で聞いて埋めちゃえと思ってたんですね。(他にも、後年の作品で司令官を引き継ぐ草波ジュニアの言動が材料としてあって。「W7」では素直に協力的だった彼が、今回の「R」ではえらく冷酷に「ワイルドなんか無くていいんです」みたいに突き放す変化があったりで。きっとその原因は、彼がオヤジから押し付けられた「ワイルド」の駄々っ子メンバー(主に飛葉)と付き合うのが嫌になってきた、その経年変化の現れだろうとか(笑)。)
まさにトークライブだから聞ける贅沢な企画だわいと、やる前は自画自賛してたんですが。
そんな質問をぶつけた途端、いきなり背負投げを食わされました(笑)。
あっさり「あー、そういうのはあんまり考えてないねえ。飛葉の怪我? 毎回のダメージをリアルに積み上げていったら、絶対あんな長く生きてないよって、お医者さんが言ってたから(笑)」と。
まさに一刀両断。
そして「その時々のお話が面白くなる事しか考えてないんだ。枝葉の枝を膨らますのに夢中になっちゃうことが多い。だから一個一個の話の中でも、あとで考えると全然つながってないところもあるのかもしれない」とおっしゃるのです。
一瞬愕然としましたが(笑)、でもこのお答え「なるほど!」なんです。
物語はもっとおおらかにオモシロさを追求するもの。
ーー無茶苦茶面白ければ(この前提大事)、ちっぽけなツジツマなんかどうでもいいのだ、と。
僕なんかはマンガを単行本で読むタイプで、「一個の繋がった長編」として読むくせがあるので、ついつい作中に前後の矛盾を見つけるとアレ? と言いがちですけど。でも、よく考えてみれば「ワイルド」って、元は1970年代の週刊少年マンガ誌の全盛期の大ヒット作。
マンガ誌の連載って、無声映画やアメコミで言うところのSerial(シリアル)、我が国で言えば戦前の講談やそこから発した国枝史郎なんかの伝奇小説とか、果ては紙芝居とかの文化と同じものだとおもうんですよ。要するに「さてこの続きは次回のお楽しみ」で連綿と物語がつながっていく、連続活劇の文化なんですね。
まず「第一の読者は、雑誌の読者」という発想で書かれていて。ストーリー展開はもちろん、人物の性格も連載中の読者の反応を受けて(いわゆる「おたより」とか「人気投票」みたい“世論”ね(笑))どんどん変わるのがあたりまえ。
現に『ワイルド』も、例外にあらず。
最初の予定では、連載は二年。その過程でどんどんメンバーが死んでいくダークな構成を考えてらっしゃったと言うんですね。でも、連載が一年を過ぎて、やっと最初の二人を殺した所で(世界とチャーシュー)、読者がメンバーを殺さないでくれと大コーラスの声をあげて、その後は殺すに殺せなくなって「結局全員殺すのに十年掛かっちゃった」と(笑)おっしゃってました。
でもそれが、Live感第一の世界たる所以。
毎週数十頁の連載の中で、次の号を買いたくなる気持ちを起こさせるために、気になるフックやセリフをぶち込んで、気分をアッパーにさせるーー読者の鼻面をとってグイグイ前に進めていくのがマンガ作者の腕。それに興奮した読者のリアクションが、お便りや売り上げ部数に反映する。そんな“コール・アンド・レスポンス”の行き来が、作者一人の構想を上回るような生命力を作品にあたえるわけで。
特にワイルドみたいなアクションものは、謎や展開の妙で「この先どうなるんだ!」ってずっと読者の心を鷲掴みにして展開してナンボ。(もちろん伏線は大事で、お話の結構が崩れるようないい加減な仕掛けを乱発しちゃったら、物語は壊れてしまうから何をやってもイイって話じゃなくてね。)
どんでん返し連発のとんでもない展開を提示して、なおかつすべての伏線を寄せ木細工みたいにピタリと収めることが出来るなんてのは、本当は神業だってこと。こうは書いてますけど、実際『ワイルド』の凄さは、その神業をほぼ成し遂げてることにある。回収しそこなった伏線なんかほんの一部。大部分はウルトラCのツィストで感動的に収まるのです。ーーむしろそうだからこそ、ごく一部の拾い損ないが目立つだけの話で。
とにかく「毎週毎週」の読者を捕まえて最終回まで引きずり回すことが、作品の第一の使命なんですね。旧のワイルドはそれを十年間やり続けたとんでもない作品だったってことを、すっかり忘れてました。
じゃあ単行本になるときに、ちょこちょこっと矛盾した部分を直せばいいじゃないかって意見もあるでしょう。
でも、そんな小細工が、連載してる時の奔流のようなエネルギーをせき止めちゃう場合だって出てくる。単行本なんて、いわばレコードのライブ盤みたいなもんじゃないですか。スタジオで間違ったところやチューニングの狂ったとこを入れ替えることはできるけど、それをやったら生の現場で生まれた“マジック”も消してしまうことがある。
きっと最初の「ワイルド」が、その後のもう少し緩やかな制作環境で書かれた続編よりも面白いのは、(ページ数の制限も含めて)週刊誌というスリリングなステージで毎週毎週紡ぎだされるーー“観客のニーズとの共作”であったからかもしれない。
結局、読者は、頁を繰る手が止まらないドライブ感や、最終頁の後の、言い知れぬ充実と「ああ終わっちゃったよ」というほの悲しさを与えてくれる“生きた”物語が読みたいわけで。
世の中には、終始ツジツマだけは合ってても喜怒哀楽のメーターが微動だにしない、整理整頓好きの貧弱な物語がゴマンとあるけど、そんなものに人生の時間使うぐらいなら、伏線張りっぱなしで放り出されようが、細部をなぎ倒してようが、豪快に迷走する望月三起也のエネルギー感を選びたい。
例えばスポーツでも、フィニッシュの着地の妙が大いなる感動を呼ぶのは、その競技者が一ミリでも高く飛ぼうとしたからでしょう?
回収されなかった伏線は、いわばチャレンジの手数。勝ちに行ったパンチの数ってことじゃないですか。スカ振りした一発や二発をウジウジ言うな。最後にKOを決めれば勝負はつく。
ーーその理屈は絶対に正しい。
未だに、「飛葉大陸が月一回少年院を脱獄する理由、望月三起也は書くの忘れてるんだぜ」とかいって、鬼の首を取ったように言う奴はそもそも「ワイルド」を読む資格なし。
そんな奴は俺が退治する!(笑)。
……と偉そうに「ワイルド」ばりの決め台詞だけ吐いてみたものの、僕の文章も伏線あまり回収できてないなあ(笑)。
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あ、ちなみにこのライブの最後辺りで、ワイルドの今後の展開について、私、先生にアメコミで言うところの「リブート」(シリーズ物の設定をある程度残したまま、今の時代に合わせて書きなおすスタイル。例えば映画の「スパイダーマン」が、役者を替えた「アメージング・スパイダーマン」で、新趣向も入れながらもう一回お話の最初から語られたりする、あんな感じ。)という手法がありますよというお話をしました。
いわば、第一シリーズの「ワイルド」のメンバーを現代に持ってきて、『魔像の十字路』(本編「ワイルド7」最終作)の結末に縛られない、若くてフレッシュな状態の彼らの物語を「今」書いちゃってもアリなんですよという、「悪魔の囁き」ですね(笑)
それを聞いた望月先生がどう反応したか…(笑)
これはファンにとっては堪らないお答えになってます。
このイベントのアーカイブ(録画)を有料公開しております。
↓のリンク先の映像で、ぜひ真相をご確認くださいませ。
[PPV] 【Live Wire#82】望月三起也「ワイルド7R」刊行記念トーク
[無料30分版] http://www.ustream.tv/recorded/20035557
[完全版¥800-] http://www.ustream.tv/recorded/20035559
「ワイルド7」が帰ってきた!!
法の網をくぐって悪事を企む巨悪に、元死刑囚の悪党たちが警官として立ち向かう。斬新なバイクアクションと奇想天外なストーリー展開、そして圧倒的な画力で、1970年代に熱狂的支持を得たカリスマ的マンガだ。
正編完結から既に30年が経過しているが、『海猿』シリーズの羽住英一郎監督によって2012年の正月映画として公開されたことで、再びエンタメ最前線に復帰。その後の飛葉と再編成されたワイルドを描いた最新作『ワイルド7R(リターンズ)』が描き上げられるという望外の展開となった。
今も現役として活躍する作者・望月三起也氏を迎えて、ワイルドの魅力とその秘密を語っていただく一夜。
映画版プロデューサー八木欣也さんや、「ワイルド7R」の編集担当を務めた実業之日本社・山田隆幸さんにもご登壇いただき、なぜ今「ワイルド」なのか。時代が望月三起也を呼ぶ理由を語っていただいた。
そして、望月ファンが長年議論の的にしてきた作品上の幾つかの謎も、今宵、質問に上がる。ーー例えば主人公・飛葉の脱獄の動機、幾つかのバージョンで展開された作品の時系列は、どうつながるのか? また作品再開のたびにチーム編成がリセットされるが、彼らのその後はどうなったか? 等々。作品中の“望月七不思議”にも、今宵作者お墨付きの回答が出る!?
ラストではハプニングも発生。
客席からの意外なプレゼントを抱えて登場したファンに、相好を崩しっぱなしになる望月さんの“可愛さ”にも注目!
司会は、映画「WILD7」にも出演した女優・河村舞子。
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